OTRSを用いた保守サポートシステム
弊社のOSS保守サポートサービスでは、顧客関係管理(CRM)のためのシステムとしてOTRS Help Deskを採用しています。
OTRSは2001年以来開発が続いているCRMソフトウェアで、OTRS AG(旧OTRS GmbH)が開発をホストしています。
無償版のOTRS Freeには、ヘルプデスク業務向けのOTRS Help Deskと、構成管理データベース(CMDB)やサービスレベル合意(SLA)を扱うプラグインを付加してITIL V3に対応したOTRS::ITSMがあります。
導入の経緯
弊社が保守サポート業務を始めた当初は、ごく少数の担当者がサポート窓口に日々届くメールをチェックして回答していれば、なんとか業務を回していくことができました。
その後、インシデント発生件数が増えるに従い担当者も増えたため、窓口アドレスをメーリングリストとして運用するようになりました。
しかし、メールシステムの強化だけでは解決できない問題も発生するようになりました。
- 対応漏れ
本来は、お客様からの新規の問い合わせに対して担当者をアサインし、その担当者による問い合わせ受け付け連絡をもってインシデントへの対応開始、となるはずです。
しかし、このための内部連絡をもメーリングリスト上で行っていたために、全体状況の把握が難しくなり、問い合わせの見落としが発生するようになりました。
- 迷惑メール(スパム)増加
問い合わせ窓口のアドレスは多くの人に公開されるため、スパマーの格好の標的となります。弊社のスパム対策サービスが9割以上をブロックしてくれますが、それでもまだ大量のスパムが届き、業務の効率は著しく低下しました。
これらを解決するために、メーリングリストに代わるシステムを導入することにしました。
システムの概要
- 顧客がメーリングリストに問い合わせを送る。
- メーリングリストを通じて配送されたメールをスパムと非スパムに分類する。
- 非スパムを取得して新規チケットとして登録する。継続問い合わせは既存チケットに追加する。
- 担当者が回答を作成し、ウェブインタフェースで送信する。
- 回答が顧客にメールで送られる。同時にメーリングリストにも送られる。
OTRSはHelp Desk 4.0.13を使用しています(2015年10月現在)。
メールでの問い合わせと電話での問い合わせの両方に共通のチケットを発行することができ、それに対するメール・電話での対応もOTRSのウェブインタフェースによるGUIで一元的に管理できます。
利用シナリオ
典型的な利用シナリオは次のようになります。
- お客様から新規に問い合わせのメールを送ると、OTRSに投入される。この時点で、新規にチケット番号が付与される。
- 担当者が新規チケットを「保守サポート」キューに割り当てる。
- 担当者は、顧客に対してチケット受け付け通知を送信する。この時点で、この担当者がチケットの所有者としてアサインされる。
- 担当者は回答案を作成し、それをチケットにメモとして追加する。
- レビュアーがメモを読んでレビューする。レビュアーが承認すれば、回答案は正式な回答となる。
- 担当者は回答を顧客に送付する。
- お客様が追加の質問をしてきた場合、自動的に既存のチケットに追加されるので、4.~6. を繰り返す。
- お客様が回答を承認すれば、担当者はチケットをクローズする。
こうして、ひとつひとつのチケットに所有者をアサインできるようになったため、対応漏れはなくなりました。
カスタマイズ
さらに、実運用のために次のようなカスタマイズを加えています。
- 文字コード
メールについての日本語独自の問題として、文字コードの問題があります。
最近は多くのメーラ(MUA)がUTF-8に対応しているものの、ISO-2022-JPの7ビットエンコーディングは依然として日本語メールの事実上の標準であり、受け手の側でUTF-8のメッセージを正常に読めないことがよくあります。
これについては、OTRSから発送されるUTF-8のメッセージを自動的にISO-2022-JPに変換するフィルタを実装して対応しています。
- スパム検査
スパムの検査には、bogofilterをカスタマイズしてバイグラム法による疑似分かち書き処理を行えるようにしたものを使用しています。
日本語テキストの解析には分かち書き処理が必須ですが、MeCabのような形態素解析ソフトウェアは辞書を用いるため、誤解析による検知漏れの可能性があり処理速度も遅いという欠点があります。
偽陽性(スパム誤検知)を防ぐため、スパム判定されたメッセージを一旦別のIMAPフォルダに配送し、適宜再学習できるようにしてあります。
実際には、導入後1ヶ月ほどで再学習が必要な偽陽性・偽陰性はほぼ発生しなくなっています。そして、OTRSにまで届くスパムの件数は年に1件あるかないかという程度にまで激減しました。
なお、OTRSで発受するメッセージを既存のメーリングリストにも配送する運用としているため、OTRSのウェブインタフェースによるGUIにアクセスし難い状況でも、メールを使って対応を継続することができます。
課題
現在のメールでの対応に加えて、エンドユーザ向けのウェブインタフェースによるGUIの提供を検討中です。
ユーザがウェブ上から問い合わせを登録できるだけでなく、過去および現在のチケット対応状況を一覧することができるようになります。
多様な契約形態への対応も課題です。
弊社のOSS保守サポートサービスでは、直接エンドユーザからの問い合わせを受ける形態に加え、大手のヘルプデスクのバックサポートという形態もあります。
後者のように、ひとつの問い合わせ元からさまざまなエンドユーザの問い合わせを受け付ける場合、OTRSの標準の顧客管理機能でうまく扱えません。
これについては専用のプラグインを開発して対応する計画です。
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